奈良美智 for better or worse

名古屋に引っ越してから5カ月が過ぎた。

こちらに来る前に暮らしていた大阪と比べて不便な点もあるけれど、

名古屋は名古屋で住みやすい場所だと思う。

東京や大阪と比べて、人が多すぎないのが良い。

この間行ってきた奈良美智展も

お盆の割にはそれほど混んでなくてのんびりと鑑賞できた。

 

 

奈良美智の作品を初めて見たのは15年前だった。

小学生の頃に家族で見に行った「THE ドラえもん展」のとき。

ジャイアンに耳をとられたドラミちゃん」という題の作品だった。

それまでは、ただかわいいイメージだったドラミちゃんが

すごく艶めかしくアレンジされていて、

子供ながらとても印象的だったことを覚えている。

 

今回の展覧会は「遅めの卒業制作」がテーマらしく、

創作のバックグラウンドになった音楽や本、人形のコレクション、

そして初期、中期、近年の作品、という順番で様々なものが展示されていた。

 

 

奈良は音楽マニアなようで、はじめの展示室の壁には

彼自身のコレクションのレコードが敷き詰められていて、

部屋の中ではそれらの曲が流されていた。

以前、NHKの「ミュージックポートレイト」という音楽番組で

木村カエラと対談していたのを見たことがあり、

音楽が好きなのは知っていたけれど

自分の展覧会にそれ専用の場所を作るレベルだとは驚いた。

今まで行ってきた様々な展覧会では

自分の趣味の品まで展示するアーティストがいなかったので新鮮だった。

 

まあ、趣味全開のその部屋もあくまで展覧会の1部であり、

もちろんアーティストなりの意味が込められているのだろう。

僕も、実際にそれらコレクションを見て、そしてその後に続く作品を見て、

彼の作品の核の1つが、「音楽」、特に「ロック」なんだ、と感じた。

 

 

 

ロックとは、社会の地位的に見ればよわっちい若者たちが、

楽器という武器を持って、自らの想いや社会への反抗を、

自らボロボロになりつつも表明するものだと思う。

あくまで個人的なイメージだけど。

そこまでは行かなくても、ロックにおいて若さがとても重要、

ということは少しロックを聴いたことがある人ならわかるだろう。

 

 

奈良の作品を初期から順番に見ていくと、描かれている人物の多くは

不機嫌そうな顔で「火」や「ナイフ」などを持っているのが分かる。

また、彼らは概して若い。その傾向は奈良のアイコンともいえる

小さな女の子が出てきてからもずっと続く(少なくとも若さは)。

その人物たちは、ロックと共通のテーマを持った

奈良美智の芸術の象徴なのではないかと感じた。

 

 

そんなことを感じながら展示を見ていたのだけれど、

今回の展覧会で1番印象に残った作品があった。

たぶん「使者」という題名だったと思う。

 

そこにはボロボロのロングワンピースを着た少女が描かれていて、

そのワンピースにはピースマークの缶バッチがつけられていた。

奈良が描く少女は力強い目をしている子が多いが、

しかしこの少女は虚ろな目をしていて、頭にはちらほらと花が咲いていた。

 

その絵を見て、すごく悲しい気分になった。

「使者」という題名、そしてピースマークなどの構成要素を考えると、

この少女は「反抗」(もしかするとロックも)、「平和」、などを表しているのだろう。

でも彼女の眼には力がなく、服はボロボロで、なによりも頭はお花畑だ。

 

それまで反抗や平和、若さを書き続けてきた奈良の、

諦めや悲しみ、皮肉がその作品には込められている気がした。

自分はそれが正しいと思っていて、そしてそれがとても好きなのだけれど、

現実を見てみると、もうそれはボロボロで価値がないのかもしれない。

ともすればそれ自体が空虚なものだったのかもしれない。という迷い。

 

大きなものが多い奈良の作品の中でもその絵は小さめで、

ある展示室の端の方に展示されていたのだけれど、

僕にとってはその絵が、ほかのどんな大きな作品よりも印象的だった。

 

きれいごとでは終われない世界。

自分の理想としていたものが空虚なものかもしれない現実。

それでもまだ、彼は絵を描き続けている。