音楽のゆくえ その②音楽ユーザーの変化
間が空いてしまいましたが第2回です。今回はユーザーサイドの話になります。
・音楽ユーザー分析
前回は業界全体の動向を分析した。今回は音楽ユーザー(顧客層)に注目する。業界全体の売り上げが縮小している中で、ユーザーサイドでどのような変化が起きているのかを分析する。
注:今回は日本レコード協会「音楽メディアユーザー実態調査」をもとに分析を行う。しかし、この調査は2014年度の調査結果がないため、2014年度が欠けた状態での分析になる。
(1)聴取層の変化と売り上げの低下
グラフ2-1は音楽聴取の種類別割合をまとめたものである。年によってばらつきはあるものの、音楽にお金をかける層である有料聴取層は減少傾向である。2015年の調査データはそれまでよりも格段に有料聴取層が減少し、無関心層が増加しているため、信憑性に少し疑念の余地は残るが、①有料聴取層の減少と②無料聴取および無関心層の増加という点は、ほぼすべての調査で一致している。では、このような結果が起きたのだろうか。その理由は2つあると考えられる。
グラフ2-1(2009年~2015年の音楽聴取層の変化)
出典:日本レコード協会「音楽メディアユーザー実態調査」をもとに作成
※各聴取層の定義は以下の通りである。
有料聴取層:この半年間に音楽を聴くために音楽商品を購入したり、お金を使ったりした
無料聴取層:この半年間は音楽にお金を使っていないが、新たに知った楽曲も聴いている
無料聴取層(既知楽曲のみ):この半年間では音楽にお金を使っておらず、以前から知っていた楽曲しか聴いていない
無関心層:この半年間は音楽にお金を使っておらず、特に自分から音楽を聴いていない
1つ目の理由は、プロモーション活動の減少である。表1は音楽購入のきっかけになった情報源の順位であり、これを見ると、年によってラジオ、CDショップ、動画サイトなど様々なものが上位に挙がっているが、注目すべきはテレビの順位の高さである。2009年を除いて1位を取り続けていて、インターネットが広まった現在においても、依然として強力な情報源であることが分かる。しかし、今は以前と比較して音楽関係のテレビ番組がかなり減少している。この減少は、レコード会社の売り上げ低下によってプロモーション費が削られ、また音楽への関心低下で視聴率が低下した影響による考えられる。このような、テレビをはじめとするメディアを通じてのプロモーション活動の減少によってユーザーに認知される機会が減り、有料聴取層の減少及び無関心層の増加の一因になったのだろう。また、下記グラフ2-2は音楽購入減少、非購入理由をまとめたものであるが、その1位になっている「現在所有している楽曲で満足している」という回答も、プロモーション減により新たな情報に触れる機会が減ったことが関係していると考えられる。
表 2-1(2009年~2015年の音楽購入の際のきっかけになった情報源1位~4位)
2005 |
2006 |
2007 |
2008 |
2009 |
2010 |
2011 |
2012 |
2013 |
2015 |
|
テレビ |
1 |
1 |
1 |
1 |
2 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
ラジオ |
2 |
4 |
4 |
3 |
4 |
3 |
||||
友人・家族 |
3 |
3 |
3 |
4 |
4 |
3 |
4 |
|||
ショップ |
4 |
2 |
2 |
2 |
3 |
3 |
2 |
|||
公式サイト |
1 |
3 |
4 |
2 |
4 |
|||||
動画サイト |
2 |
2 |
3 |
2 |
||||||
4 |
出典:日本レコード協会「音楽メディアユーザー実態調査」をもとに作成
グラフ2-2(2015年調査における楽曲購入の減少または非購入理由)
出典:日本レコード協会「音楽メディアユーザー実態調査2015」p9
そして2つ目の理由は、YouTubeを中心とした無料で音楽を聴けるサービスの拡大である。上記グラフ2-2では、金銭的な理由なども挙がっているが、「無料で聞ける環境がインターネット上にあるため満足している」という答えが30%もの割合を占めていることが分かる。またグラフ2-3は2015年度の調査における音楽聴取に利用する手段に関するアンケートであるが、これを見ると、現在音楽を聴くための最もメジャーな手段はYouTubeであることが分かる。主な聴取手段としてYouTubeを利用している人は全体の50%に上る。これらのことから読み取れることとしては、YouTubeを中心としたサービスによって無料で音楽を聴ける環境が生まれ、そのために有料聴取層は以前と比較して音楽を購入しなくなり、無料聴取層は音楽を購入せずにそれだけで満足するようになったと考えられる。実際にYouTubeで検索してみると、多くのアーティストの曲はシングル曲を中心に一通りそろっている。音質などにこだわらなければ、かなりの数の曲をYouTubeでは無料で聴けるのである。
グラフ2-3(2015年調査における音楽の主な聴取手段)
出典:日本レコード協会「音楽メディアユーザー実態調査2015」p4
整理すると、
①音楽の売り上げ低下によってプロモーション費用の削減や視聴率低下といった事態が生じ、テレビを中心としたマス向けのプロモーションを打ちにくくなった
②無料サービスの拡大によって、有料聴取層の減少と無料聴取層の増加が起きた
この2つによって有料聴取層の減少及び無料聴取層、無関心層の増加といったユーザーサイドの変化が起きたと考えられる。
(2)売り上げ増加へのプラス要素
(1)で挙げたマイナス要素の一方で、日本市場には売り上げ回復へのプラス要素もある。その1つがハイレゾへの関心の高さである。ハイレゾとは音楽用CD(CD-DA)を超える音質の音楽データの総称であり、有料音楽配信に付加価値を与え、サブスクリプションサービスとの差別化が図れると考えられている。表2-2を見ると、ハイレゾの利用意向がある人は19.4%である。グラフ2-1のとおり2015年時点での有料聴取層の割合が32.9%なので、その内の約3分の2が利用意向を持っていることになる。今後はコアな音楽ファンを中心にハイレゾに対する需要を喚起することが期待されている。
表 2-2(ハイレゾの認知度、関心度、利用意向の調査結果)
出典:日本レコード協会「音楽メディアユーザー実態調査2015」p12
また、プラス要素の2つ目としてはコンサートへの参加割合の高さが挙げられる。グラフ2-3は2015年におけるコンサートの参加率を表したものである。一番高い国内アーティストのコンサート参加率が23%ほどなので、全体としては25%以上の人は過去1年間にコンサートに行ったことがあると考えてよいだろう。この結果からは、無料聴取層や無関心層が拡大しつつも音楽に関心を持っている人はかなりの割合でまだ存在することと、今後のコンサート市場の可能性の高さを表している。
グラフ2-4(過去1年間のコンサート参加回数の調査結果)
出典:日本レコード協会「音楽メディアユーザー実態調査2015」p11より作成