音楽のゆくえ その①音楽市場の変遷
音楽業界について詳しく調べる機会があったので、その内容を少しずつ載せていきます。
話題はサブスクリプションサービスが中心になります。
今は内容をほとんどそのままはっつけてますが、後で編集する予定です。
・世界における音楽配信
まず、インターネット普及以後の音楽業界の歴史を見ることによって、今までどのように音楽業界が変化し、また、音楽配信およびサブスクリプションサービスがどのように展開してきたかを考える。
the Atlantic 「Think Artists Don't Make Anything Off Music Sales? These Graphs Prove You Wrong」より
※「Physical」はDVDやCDなどの音楽ソフト、「Digital」はiTunes music storeなどの音楽配信サービスやサブスクリプションサービスの売り上げを表す。以後この定義を用いる。
(1)インターネットの普及とファイル共有ソフトの出現
世界的にインターネットが普及し始めたのは90年代後半からであった。1997年における普及率は日本では10%、アメリカでは20%ほどだったが、2000年には両国とも約40%にまで拡大していた。上記のグラフ1を見ると、1998年ごろをピークに、音楽売り上げが低下していったことが分かる。この音楽売り上げ低下は、インターネットの普及による音楽の違法ダウンロードによって引き起こされたと言われている。
その違法ダウンロードの手段としては、まず1990年代に、インターネットとMP3の普及によって違法ウェブサイト型MP3配信が出現した。これは、ウェブサイトにアップロードされた音楽ファイルをユーザーがダウンロードするものであった。そしてその後、P2P方式でのファイル共有ソフトの「Napster」が登場した。P2P方式では、インターネットを介してパソコン同士でファイルを共有する。ウェブサイト型特有のリンク切れ等の問題が無いことが魅力だった。Napsterは爆発的に広がり、多くの音楽ファイルがNapsterを介して共有されるようになった。
Napsterに対しては、RIAA(アメリカレコード協会)傘下のメジャーレーベル各社が1999年、著作権侵害に対する責任を根拠にNapsterを提訴した。Napsterはこれに敗訴したことをきっかけに、2000年7月にサービスを停止した。しかしその後もNapsterに似たファイル共有ソフトは無くなることはなく、「Gnutella」「WinMX」「BitTorrent」「Winny」などが出現した。2000年以降の音楽売り上げの減少傾向は、上記のファイル共有ソフトや「YouTube」等の動画サイトを通じ、人々が無料で音楽を聴くようになったことが大きな原因と考えられる。
音楽を売る側はその問題への対策をしなかったわけではなく、アメリカの大手メジャーもいくつか有料音楽配信をスタートさせた。しかし、ファイル共有ソフトへの警戒もあってか、ダウンロード後の音楽ファイルをCDやWalkman等のPD(ポータブルデバイス)に書き込むことへの厳しい制限を設け、結果としてユーザー離れを起こし、失敗した。
そして、そのような状況下で新たなサービスを始めたのがAppleである。Appleは2003年4月に「iTunes music store(itms)」を開始した。itmsは上記のメジャー系音楽配信と異なり、iPodへの転送回数を無制限にするなど制限を緩和し、それがユーザー獲得につながった。その後はitmsに追随する形で、yahooやレーベルゲートも音楽配信サービスを開始し、有料音楽配信が拡大していった。
また、itmsをはじめとする音楽配信サービスは楽曲やアルバムを1曲単位で個別購入するものであるが、それとは異なる形態の、サブスクリプションサービスを2003年10月に開始したのが「Napster 2.0」であった。Napster 2.0は前述のファイル共有ソフトのNapsterを、破産後の更生手続の際に米Roxioが買収した後、開始したサービスである。これはファイル共有ソフトとして普及した際、また裁判で話題になった際に、上がったブランドの知名度を利用した別の事業だと言える。その後はitmsのような個別購入の有料配信とサブスクリプションサービスの2つが音楽配信の中心になった。しかし、それらのサービスは売り上げを伸ばしていったものの、音楽売り上げ全体の減少を止めるには至らなかった。
その後の音楽市場に変化が起きたのは、2012年のことであった。下記のグラフ2を見ると、2012年に、それまで10年以上続いていた全世界の音楽売り上げの減少に歯止めがかかったことが分かる。また、2015年には増加に転じていることが分かる。
IFPI 「Global Music Report」をもとに作成
http://www.ifpi.org/resources-and-reports.php
※「Synchronization」は「シンクロ権」と呼ばれるもので、音楽とテレビCM、映画、ビデオ・DVD等の映像を同期させて録音する権利である。日本では録音権の一部とされている。また、「Performance rights」は「演奏権」のことで、曲の演奏や再生の際に発生する。
その理由としては、
- 演奏権(performance rights)、シンクロ権(synchronization)の収益増(前年比5%増)
- デジタル売り上げの増加(同8%増)
- サブスクリプションサービスの拡大(同14%増)
などがあげられる。①に関しては、演奏権はサブスクリプションサービスの再生時にも発生する権利のため、サービスの広がりによる影響、またアーティストのライブ数の増加による影響だと考えられる。そして、②と③に関しては、スマートフォンの普及により、それらのサービスの利便性が向上したことによる効果であると考えられる。(アメリカのスマートフォン普及率…2009年:10%、2014年:70%)また、その中でもサブスクリプションサービスは欧州においてデジタル売り上げの30%を占めるなど、大きく拡大している。
その欧州におけるサブスクリプションサービスの中心にいるのが、2008年にサービスを開始した「Spotify」である。詳しくは後述するが、Spotifyは他のサブスクリプションサービスとは異なり、無料でも音楽を聴くことができるフリーミアム戦略をとっていることが特徴である。また、ユーザーの好みに応じたプレイリストの提供など、個々のユーザーに特化したサービスを行い、拡大した。(Spotifyの2015年の売り上げは約2250億円)そして2015年には、2012年に減少が止まったことと同じ理由により、約20年ぶりに全世界音楽売り上げが増加したのである。
今までの変遷をまとめると、音楽の世界市場はNapsterやYouTubeをはじめとする無料音楽聴取サービスの出現によって2000年ごろから縮小していった。それに対してitmsなどの有料音楽配信サービスがデジタル売り上げを伸ばしたが、全体の売り上げ回復には至らなかった。そして、2010年ごろからスマートフォンの普及とともにサブスクリプションサービスが世界的に広まり、その売上げもあって市場の縮小が止まり、回復基調に転じたのであった。